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何事もなかったかのように

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私は

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私は

私は鳩を殺した。

その日の青空は、とても綺麗な青色だったのを覚えている。
清々しい空とは裏腹に、帰宅途中の小学生だった私の心は、むしゃくしゃしていた。
どうしてむしゃくしゃしていたのかは分からない。
先生に怒られたのか、友人に仲間外れにされてしまったのか。
私はその時にどうしてむしゃくしゃしていたのかは、すっかり忘れてしまった。
とにかくむしゃくしゃしていたのだ。
今でも覚えている、頭の中でぐるぐると回る怒りを何としても吐き出したかった。

あと自宅まで100メートルくらいのところで、それは起こった。
ガラス張りのビルに、鳩がどん、とぶつかったのだ。
ガラス張りのビルは、いつも人がいなかった。
明かりもついておらず、何のビルかも分からない、無機質な場所だったのを覚えている。
そのビルに向かって、鳩はぶつかったのであった。
鳩はぶつかって、それからすぐ起き上がり、飛ぼうとした。
しかし、怪我をしたのか、翼を開きにくそうに、足をひきずるようにして、植木鉢の側に隠れようとしていた。
私は重いランドセルのことは忘れて、鳩の側に駆け寄った。
鳩は大人しく、いや、もしかすると諦めていたのかもしれない、とにかく私が体を持ち上げても暴れなかったように思う。

違う、鳩は確かに暴れた。
私は、初めは助けてあげようと思って鳩に駆け寄ったはずだった。
そして、気を付けて鳩に触れたつもりだった。

鳩は暴れたのだ。
私を拒否した!私の頭の中は怒りでいっぱいになった。
むしゃくしゃどころの話ではない、殺意があったように思う。

私は思い切り、鳩を地面に叩きつけた。
おそらく2回ほど叩きつけたと思う。
小学生がありったけの力で、地面に鳩を叩きつけた。
これは撲殺ではない、何殺というのだろう。
とにかく、それで鳩は大人しくなった。
私は再び、助けてあげようと思って鳩を拾い上げた。

鳩の目からぬるりと血が出て、私の手についた。
あの時の気味の悪い感触は今でも何とも言えない感覚として残っている。
動悸がばくばくと、体じゅうから鳴っていたような感覚も残っている。
私はそれを、鳩を、自宅から50メートルくらいのところのスーパーの脇に置いた。
そして、持っていたお守りか、近くで拾ったお守りか曖昧だが、とにかく鳩の脇にお守りを置いた。
手を合わせたような、合わせていないようなとにかくそのまま、家に帰って、そう、家に帰ったのだった。

何事もなかったかのように。

私は鳩を殺した。
私の弟は、誤って蟻を踏んでしまった時、大泣きをして自分を悔いた。
たんぽぽをふみつけてしまって、可哀そうなことをしたと泣いていたこともあった。
私は母体の中に優しさや慈しみといった感情を置いてきて、弟がそれを拾ったのだろうかと思った。
私は鳩を殺したのにも関わらず、今、とても幸せだ。
顔はほど良く可愛らしく、家族は私を愛し、友人にも恵まれ、私を好きだと言ってくれる男性もいる。
私は鳩殺しなのに。

中学生の時に、私は鳩を殺した罰にと、自分の腕を切った。
その時も、むしゃくしゃしていた気がする。
結局は、鳩を殺した罰といいながら、むしゃくしゃしていたから腕を切っただけなのだ。
愚かしい、本当に愚かしい私は、死ぬ価値もないと思う。

母に私は鳩を殺したことを言った。
母は、そんなこと誰でもある、誰でもすることだ、あなたは優しい子と言った。
鳩を殺したことを悔いていることが優しい子だと言うのだ。
鳩を殺したという事実は変わらないのに、私は優しい子なのだ。
鳩は許してくれているよ、と母は言った。
あなたはその鳩じゃないのに、どうしてそう思うのだろうと思った。
あの時の鳩は私が殺したのだから、私が殺したことを許しているかどうかは、永遠に分からないのだ。

私は殺した鳩のことを背負って生きていかねばならない。
幸せになる資格がない、とは思わない。
不幸にならなくてはいけない、とは思わない。
私はむしろ、生きて幸せにならなくてはいけないのかもしれない。
けれども、殺した鳩のことを忘れてはいけない。
私は鳩を殺したのだ。
それを忘れることは、鳩がたとえ許してくれたとしても私は絶対に許さない。

私は許さない。
愚かな愚かな私を私は絶対に許さない。
私は私を殺せばよかったのに、鳩を殺してしまった。
皆が私を許してくれる。
だから、私は、私を許さない。
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